MX61はYAMAHAが誇るMOTIF系列の、最もエントリーに位置する、ビギナー向けのキーボードだ。シンセサイザーのカテゴリでも、音色をエディット無しで使う、プレイバックサンプラー的な使い方がメインだ。
とはいえ、フィルターの効きも悪く無いし、アタック、リリース程度ならリアルタイムに調整できるし、コントロール機能は過不足がない。
特に、このMX61で開眼した、新しいシンセの可能性。それは、メタルを表現できるシンセサイザーという新しい世界。
◾️メタルと言えばギター
インサーションエフェクトが音色と一部として保存されるというのは素晴らしい発明じゃなかろうか?
音が細いからChorusで太くしようなんていうJUNO106開発秘話みたいな話ではなく^_^
シンセの音に、強烈なディストーションと、アンプシミュレーターをかけて、MetalRiffなんて言う音色として保存したり、なが〜いディレイをかけたシングルコイルギターでイングヴェイソロだとか。
ギターアンプのフィードバックを表現するデジタルシンセ。
ゲートタイムを短くして打ち込むと、リフがブンブンと鳴る。
長い間、シンセで表現するギターには失望感しか無かった。
キーボーディストがエレキギターに張り合うのはダサかった。演奏者の顔の歪みの割には音の変化に乏しく、タダの勘違い野郎にしか見えなかった。
まあ、それはそれとして、話を戻すと。
MX61のインサーションエフェクトは強烈だ。音作りの手法としてのマルチエフェクター。MX61はコレを同時に4パートまで使えるので、ツインギター、ベースにかけた上で、ドラム全体にコンプみたいなのもオッケー。
◾️ベースの存在感も凄い
インサーションエフェクトは、ベースでも威力を発揮。大きなキャビネットをブンブンと鳴らすあの音がシンセから出る驚き。
フェンダージャズベース的な音を選び、キャビネットをブンブン鳴らすといい感じ。
箱鳴りを加えると、音が一気にリアルに感じられる。
と言うのは実は受け売りで、BGMやTechnodelicを作った頃の、いわゆる中期YMOでは、シンセやドラムマシンの音をアンプから出して集音していたと聞く。
◾️生ソロ楽器の存在感
MX61のソロ楽器音は説得力がある。
気に入っているのは、アイリッシュパイプ、エレクトリックヴァイオリン、オーボエ、チェロ、ヴィオラの類。
アタックの音色変化とビブラートの音楽的なこと。
音楽的とは、この手のソロを際立たせるBPMが60-80位の曲の二拍目からビブラートが徐々に深くかかるみたいな事ね。
こう言うのは、試奏して単体で音を出した時には、あざとい、クドいビブラートだなぁと思うだろうな。
◾️重ねてわかる生楽器音の美しさ
もう一つMX61で開眼した世界は、一言で言えばオーケストレーション。
弦楽器、管楽器、オーケストラ打楽器でフルに鳴らした時のゴージャスな事!
アコースティックベースもGOOD。
静寂が支配する導入部や、クライマックスの歓喜の瞬間まで、弦の擦れる音や、管楽器が発音を待つブレス感。素晴らしい再現性だと、舌を巻くね。コレぞYAMAHA、コレぞMOTIF。
同じシーケンスを、他のメーカーで鳴らすとすぐに分かる。ガサツで、品が無く、オケに馴染まない。
偉そうに言うけど、静寂の捉え方が根本から違うんじゃないかと思う。
こういうのは、単体で鳴らして、やれバンドで鳴らすとギターやドラムに負けるだの、抜けてこないとか評価されがちだ。
住む世界が違うの一言で事足りる。
ロックのアーティストがオーケストラと共演した時の残念さ。ダイナミクスを音圧だと思っていたり、オーケストラが大事にしている静寂を、馬鹿みたいなエレキギターでぶっ壊しておいて、平気な顔。そんな感じ。
また、話がズレた。
◾️アルペジエータ
もう一つ使いでのある機能がある。
アルペジエータだ。これは、昔懐かしいピロピロの話ではない。
楽器特有の演奏の癖をエミュレートした演奏支援機能だと言いたい。
偉そうに。
最近知った使い方なのだが。
ベロシティと関連付けて、例えばマンドリンのトレモロだとか、太鼓のロールだとか、リードの笛系の高速トリルなんて最高のシーンだ。
こういうのキーボードの演奏ではなかなか綺麗にはいかないし、リアルタイム録音では思わず気張ってしまい、自然な演奏が出来ない部分だ。
ギターのカッティング、アルペジオなんかも良さげ。
アルペジオパターンで数千とか、意味が分からないと思っていたのだが、なるほど。
これはMIDI データで表現できるフレーズサンプリングの技術なんだね。
鍵盤楽器としてのシンセサイザーが、全ての楽器の演奏の癖を手に入れた物凄い画期的な技術だったのだ!
◾️この世界観!MX61ならでは。
BjorkのNewWorldという曲、これはDancer in the darkの曲と言った方が伝わりやすいかと思うが、エレクトロニカと管弦楽な曲なんだが、正にMX61が得意なヤツ。
アナログリズムマシンにフィルターを通して一曲通底して、ビョークのブレス全開の孤高のヴォーカルをホルンやストリングスが盛り立てて行く。ボレロみたいにひたすら手を変え品を変え盛り上がるのだが、最後、恐らく映画でビョークが首吊りでぶら下がるシーンの後なんだろうな、一気に静寂に落ちて、ホルンが神々しく響いて終わる。
または、鉄道員という映画の主題歌。
笛の音で始まり、ピアノとストリングスで訥々と始まるのだが、この曲も管楽器や弦楽器、ティンパニ、大太鼓が入って盛り上がりつつ終わる。最後はまたピアノが静寂を支配して終わる。
主演の高倉健の見た幻だったのだと、現実に戻るかのようなエンディングだ。
つまり、静寂の表現と、エレクトロニクスと、なんならエフェクターを駆使したロックなダイナミクスまで、全部表現できるスーパーシンセサイザーだと結論付けよう。
MX61の話ではない、もはやMOTIFという大傑作プロダクションシンセ全体に対する最大の賛辞を贈りたい。そう。勝手に^_^
◾️シンセサイザーの正統進化
MX61を5万円程度で手に入れたのは2016年だった。島村楽器から出た白いMX61。
いつからだ?こんな凄い事になったのは。
オヤジ的には、90年代後半のRolandで言うとXPなどのワークステーションがエクスパンジョンボードだの、JDでアナログモデリングだの、YAMAHAがバーチャルアコースティックだのと言っていた頃から、浦島太郎なのであって、ミレニアムを迎えた頃にはとっくにPCでループベースの音楽もどきにうつつを抜かしていたのだ。
2000年代にアナログモデリングや、バーチャルドラム、エフェクトでもモデリングなど、デジタルな模倣が始まり、表現手法の面でもフレーズサンプリング的なこのアルペジオ機能が盛り上がったんだろうな。推測だが。
結果、PCでの音楽制作の荒波に対峙する中で、MOTIFだとか、Fantomだとかが、サンプラーやデジタルミキサーやエフェクターなんかを抱きかかえて、シームレスなデジタルオーディオ環境を目指したのかな。
2010年代からはフラッグシップモデルの廉価版、より軽量に持ち歩けるMX61みたいな時代の権化みたいなのが数万円で手に入る世の中になったと。
素晴らしいじゃないか。
シンセサイザーの歴史を真っ直ぐに継承しつづける姿。
今買うと、わずか5万円程度。
iPadを新調するよりも、MX61をお勧めしたい。
◾️実はもっと良いのが
最大の賛辞をMX61に贈りながら、更なる世界への入り口が迫っていた。
ワークステーションである。MX61からの先祖返り。MOTIFへの憧れである、
MOTIF XS、XF、MODXに憧れながらのMOX6。
シーケンサーのSTEP入力を求めると、MOXかMOXFになる。
コレの素晴らしさについては別記事で。