デザインって言っても意匠だけの話ではなく、インタフェースの設計だとか、パーツの配置だとか、モノとしての所有欲を掻き立てる特徴のようなもの。もしくは、楽器に向かった時の高揚感とか、満足感とか。
ハードウェアにフェチ的な官能を感じたいので、PCベースの音源なんてなんの魅力も感じないし、ラックマウントの音源モジュールにも興味が無くなってしまった。
◾️ラックマウントの音源
アレほど酷使したU220やVintageSyntheモジュールが、今は最もつまらない機械に思えてくる。良い音を増やしたい、同時発音数を稼ぎたいだけの話で、全く音楽的なチョイスでは無い。増えすぎた鍵盤を減らしたいとか、省スペースだとか。音楽とは全く関係がない事情で採用されるオーディオ機械だと思う。
音を出すための鍵盤も無く、音を変化させるための工夫が無いものが楽器であるはずがないと思う。
◾️音色ライブラリーの箱がシンセサイザー?
音色が商品として流通するようになったのは、電子楽器がコンピュータと出会ってからのことだから、かれこれ35年位経つ。懐かしのMSXミュージックコンピュータでも、音色ライブラリがカセットテープで売られていたし、DX7の頃にはファミコンみたいなROMになった、その後はPCMカードとか、エクスパンジョンボードとか。
この頃のライブラリーは、特定の機種に依存していて、該当するハードウェアを持っている人にしか恩恵が無かった。
コンピュータでマルチ音源を鳴らせるミュージ郎なるパッケージが大ヒットして、DTMというジャンルが誕生した。音色の配列が標準化したものの、つまらない音の氾濫を生み出したように思う。
PCベースで音楽を作るようになると、ハードウェアが無くても音を出せるように、ソフトウェア音源が出てきた。GM相当の音がどんなPCでも再生できるようになった。
次は物理モデリングだと言うことで、ハードウェアシンセサイザーをPC上で再生できるようになった。どんなシーケンスソフトウェアからでも使えるように、VSTプラグインが一般的になった。
しかし大きな問題があって、演算がCPUに集中するから、沢山の音源を同時にたくさん使おうとすると、発音がもたついたり演奏が遅れたりするということ。レイテンシーだとか、ディレイだとか、本来音楽家や演奏家が考えなくても良い事まで、理解を要求する傲慢さが堪らなく嫌だ。
物理的な制約を超えるために仮想化したはずなのに、結局の所、物理的な制約に悩まされる。
8ビット時代のMIDIの頃だって、リアルタイム性を担保するために、割り込みだとか、専用LSIだとか、レイテンシーがmsの範囲に収まるようにハードウェアで努力してきたと思う。
それが今はどうだ。高性能なインテルCPUに任せて、またはOSだとかUSBドライバーだとかの汎用技術にアウトプットの責任を負わせておいて、「性能が足りなければ、より高速なコンピュータをどうぞ」と言わんばかり。
「ふざけてんのかよ、あ?!」と思う。
誰に言ってんだか。^_^
結局、有名なソフトウェアシンセを買い集めると、ハードシンセが買えるほどの金額になる。より高速なPCが欲しくなるし、高音質なDAも欲しくなる。大量のメモリも、ディスク領域も浪費する。
◾️PCと接続する機器のイケてなさったら!
しかし所詮はインタフェースを持たない単なるプログラムだから、音を出そうと思ったら、出している音を変化させようと思ったらMIDIキーボードもいるし、沢山のツマミやパッドも欲しくなる。反応がギクシャクした、イケていないUSBキーボードやPADコントローラーで、首を傾げながら演奏。^_^
そんなことなら、初めから、好きな音が出せるワークステーションを買った方がいいのにね。あ、自分の体験ね。USB MIDIだのUSB AudioだのをPCに繋いで、OxygenだかのMIDIコントローラーを繋いだりしてさ。
沢山のMIDI機器を繋いで沢山の電源タップのスイッチを押すのもどうかと思ったが、こんないけてないPC周辺機器を使うために、クソ重いPCの起動を待つなんて、苦役にも程がある。
◾️じゃあタブレットならマシか?
PCの鈍臭さは、タブレットでマシになるのか?といえばそうでも無かった。
iPadやPCで動作する沢山の音源を買った。ムーグやらMSやら。コレもまたイケてないんだな。10インチだかのタッチパネルで、ベロシティのない平面的な鍵盤もどきをタッチして発音。コレがムーグですと?
ツマミをグリグリするんですか?この怪しい動作しかしないロータリーエンコーダもどきのしょうもないインタフェースで。
iPadにMIDIコントローラを付けようと思えば、カメラアダプターとやらの心細いインタフェースをUSBハブに繋いで、以下同文。酷いハードウェア構成に辟易する。
コンピュータと、プログラムさえあれば、世界中のどんな電子楽器の音も生み出せる。
・・・と望んだ。確かにそれが楽しい時もありましたな。
そのようにデスクトップミュージックの世界が動いてることは知ってる。否定もしない。
しかし、どうか、その「コンピュータで世界の音の全てを手に入れる」の妄想のまま、別の世界でお楽しみくださいと思う。自分はいち抜けた。
◾️リアルタイムに音が出てこそ楽器だ
音をリアルタイムに、音楽家が納得できるレスポンスで、最大128ボイスを出せるように設計された専用のLSIやAD/DA、音源のコントロールは単なる再生どころか、ベンダーだの鍵盤だののリアルタイムメッセージを何よりにも優先して処理しなくちゃならない、リアルタイム処理の権化だ。
数十年の楽器作りのノウハウがギッシリ詰まっていると思う。
PCの世界で、M2MだのIoTだのと騒がしいが、電子楽器の世界は何十年も前からセンサーの塊、IoTだし、リアルタイムだ。人間の耳が音の遅れを感知するのは。僅かに30msだから、これ以上遅れるようなのは楽器ではない。
スネアドラムをシングルで叩くのと、フラムで叩くのはちゃんと意図があるから、スネアの2度鳴りなんかしちゃいけないのよ。
そう言えば、MIDI2が企画されている時、既存の、MIDIの課題として上がっていたのが、ドラムの演奏に追従できていないというのを聞いた。ゴーストノートだとか、物凄く細かな解像度で演奏家の方は表現しているのにって話。
実はどの楽器にも既存のMIDIの遅れや解像度の問題はあったんだろう。リズム楽器を奏でる演奏家が、1番タイミングに対する許容度が無い事は自明だと思われる。
◾️悦楽
リアルタイム処理に特化した、電子楽器という実在の物体を使って、手を伸ばせばボリュームもエンベロープもパンニングも全部思い通りにコントロールできる環境で、それでも、100Wも消費しない素晴らしいエコシステムで。
ツマミを回す実感。ダイアルをコリコリと回す、音を前後する感覚、複数のスライダーで、もう少し表に出したい音をつまみ出し、
リアルタイムに輝くLEDを見つめる悦楽を大事にしたい。